デュークが見た『第11回釜山国際映画祭』

海雲台にメイン会場を移し、今年も大いに盛り上がった釜山の熱い 9日間を振り返ってみよう!

アンニョンハセヨ、デューク松本です。10月12日から開催されていた第11回釜山国際映画祭(略称:PIFF)も先週の金曜日(20日)で閉幕しました。今年も素晴らしい晴天に恵まれたPIFFですが、メイン会場をビーチエリアの海雲台に移し、そのロケーションはこれまでになく抜群。韓国内と海外から来た多くのゲスト・報道関係者・観客で溢れかえり、街は国際色に彩られました。前回は10回記念の気合いでPIFF史上最高の結果を生みましたが、今回の結果はどうだったのでしょうか。その熱い9日間を振り返ってみましょう。
数字で見る第11回釜山国際映画祭
閉幕式翌日の21日、実行委員会から今年の結果が発表されました。今回ののべ観客動員は16万2835人。これだけ見るととても大きい数字ですが、前回比だと約3万人減。やはり前回は第 10回記念、それがいかに大規模だったかというのがわかります。でも、座席占有率は71.3%と例年並み(昨年より3.3%増)。ということはこれも想定内、まずまずってことなんでしょうね。作品は 63ヶ国から245本の作品が集まり、計662回の上映が行われました。会場は海雲台(水営ヨット競技場特設会場、メガボックス海雲台、プリモスシネマ海雲台、CGV萇山)と南浦洞(デヨンシネ マ)の5劇場を使い、総31スクリーン・1万 2188席で展開、のべ座席数は22万8285席にも及びます。水営ヨット競技場特設会場で催された開幕式と閉幕式の座席占有率はとも に100%!参加したゲストは51ヶ国より8000人を超え、報道関係者を含めると1万人に及ぶそう。作品上映後の観客 と製作・出演者による対話イベント(ゲストビジット)は計119 回、野外特別ステージでの舞台挨拶は計22回行われました。(※ すべて主催者発表)

豪華なゲストたち

国際的に見ると前回の目玉は世界的アクション・スターのジャッキー・チェンでしたが、今回の目玉は同じ香港出身の俳優アンディ・ラウといえるでしょう。特に出演作をPIFFに出品しているわけではないですが、自身の代表作「インファナル・アフェア」のハリウッド・リメイク「ディパーテッド」(監督:マーティン・スコセッシ、主演:レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン)が PIFF期間直前に全米で封切られ、大ヒットを飛ばしているという意味でもとても旬なゲストです。しかも、ジャッキーと比べてアンディは二枚目スター(?)。そして、今回はPIFF関連イベントとして初開催されたアジアン・フィルム・マーケットの発起人のひとりとして重要な役割を担い、数多くのイベントに参加するなど、そのサービス精神の旺盛ぶりを遺憾なく発揮してくれました。
韓流的には、その第一人者としてアンディ・ラウに負けずにいろいろなイベントに顔を出したイ・ビョンホン。やはり元祖四天王の貫禄、どこに行っても最もフラッシュを浴び、その人気ぶりは衰えるところを知りません。彼の参加如何でPIFFの一般的注目度も大きく変わったことでしょう。そして開幕式の司会を務めたアン・ソンギも終始 PIFF関連イベントに参加、PIFF名物オープントークではアン ディ・ラウと夢の会談を果たしました。その他ナビでも紹介されたように、男優陣ではチョ・インソン、チョン・ウソン、ユ・ジテ、キム・ドンワン、イ・ジュンギ、リュウ・スンボム。女優陣ではキム・ジス、オム・ジウォン、イム・スジョン、ハン・チェヨン、スエ、ムン・グニョ ンらが注目を集め、祭宴に華をそえました。
日本組で最も注目を浴びたのは桃井かおり。昨年出演したハリウッド映画「SAYURI」(ロブ・マーシャル監督作)での好演で一気に国際的評価を手中にした彼女ですが、今回は女優としてというよりか初メガ ホン「無花果の顔」の監督としての釜山上陸、数多くのイベントに参加し、メディアと観客の注目を一手に集めていました。なんでも彼女は以前にPIFFの審査員を務めていたらしく、その理解と思い入れがひとしおなのでしょうね。また「悪夢探偵」の塚本晋也監督と松田龍平と hitomi、安藤政信、「花よりもなほ」の是枝裕和監督、「虹の女神」の熊澤尚人監督と市原隼人、そして韓国で絶大な人気を誇る岩井俊二監督(今回は「虹の女神」のプロデューサーとして)もこぞって釜山に上陸し、人気を博していました。
もちろんゲストは韓国・日本・香港からだけではありません。世界各国から監督や俳優がPIFFを訪れ、特に中華圏作品の舞台挨拶と欧州 とインディペンデント系監督の紹介が頻繁に行われていたように感じました。そして、閉会式に最も華を咲かせたのがベトナムを代表する二大 女優ドー・ハイ・イエン(パオの物語)とTRUONG Anh Ngoc(The White Silk Dress)の競艶でしょう。ここ数年ジワジワと人気を博して いるベトナム映画ですが、近作の中で最も力が入れられているこの2作 品を国際市場にアピールするには十分な機会だったと思われます。 (「夏至」でその名を馳せたドー・ハイ・イエンはマイケル・ケインが 2002年にアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた「愛の落日」のヒ ロインを務める国際派女優です)

デュークのPIFF鑑賞作品ベスト10

やっぱり映画祭といえば映画が主役。今年も数多くの傑作・佳作が紹介され各界で話題になりましたが、総作品数245本となるとすべてを観賞することは到底不可能。限られた開催期間のなかで鑑賞作品を絞り込むのは毎回至難の業ですが、ここでは今回のPIFFで観賞した作品の中から私なりのベスト10をご紹介したいと思います。
1. A Soap
デンマーク/2006年/104分/35mm/カラー/監督: Pernille Fischer CHRISTENSE
ひとこと凄い!舞台がマンションの同棟2部屋のみで、登場人物は主人公であるそれぞれの部屋に一人暮らしする住人、プラス関係者2名の計4名。内容は上階に住む自由奔放に生きる独身女性と、下階に住む人生に悩み性転換を望むトランスセクシャルの男性が恋に堕ちるというもの。このような設定であるにも関わらず全く閉塞感を感じず、奇をてらわず、先が読めないストーリー、そして観賞後の爽快感といったら言う事がありませんでした。この映画と出会っただけでも PIFFに来た甲斐があるといっても過言でない傑作です!
2. グアンタナモ、僕達が見た真実
イギリス/2006年/96分/35mm/モノクロ/監督: マイケル・ウィンターボトム
社会派で中東問題に長けた英監督ウィンターボトムが、国連でも議題に 上る米軍グアンタナモ基地捕虜収容所問題に正面から挑んだ問題作。若いイスラム教徒の英国人青年グループが911同時テロの直後にパ キスタンからアフガニスタン巡礼の帰路で誤って連合軍の捕虜となり、 そのままキューバのグアンタナモ基地へ移送、人権を無視し希望すらもてない日々を数年間も強いられる過程をドキュメンタリータッチで描いた実話です。
3. Fraulein
ドイツ・スイス・ボスニア=ヘルツェゴビナ/2006年/ 87分/35mm/カラー/監督:Andrea Staka
ボスニア紛争をトラウマに持ち旧東ドイツ(?)に出稼ぎにきた若い女性と、彼女をウェイトレスとして雇った食堂店主の中年女性との心の交流を通 して、自由の大切さを描いたヒューマンドラマ。この2人の最終決断に拍手!
4. The Violin
メキシコ/2006年/98分/35mm/モノクロ/監督: Francisco VARGAS QUEVEDO
政府軍と反政府ゲリラの紛争が続くメキシコの片田舎でヴァイオリン弾きを生業とする貧しくも寡黙な老人が、その2つの勢力間を往来するうちに紛争自体に巻き込まれて行く悲劇をモノクロームの乾いた映像で綴る。
5. Fast Food Nation
アメリカ・イギリス/2006年/115分/35mm/カ ラー/監督:リチャード・リンクレイター
全米展開するハンバーガーチェーン店の幹部の南部工場出張と、メキシコから不法移民し、その工場で働く若いカップルの人生が微妙に絡み合う、米ファーストフード産業に一石を投じた問題作。原作は米国でのベ ストセラー小説、監督は「スクール・オブ・ロック」「ビフォア・サン セット」のリンクレイター、主演はグレッグ・キーナーと「そして、一 粒の涙」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた新鋭カトリー ナ・サンディノ・モレノ。
6. Grbavica
ボスニア=ヘルツェゴビナ・オーストリア/2006年/ 90分/35mm/カラー/監督:Jasmila Zbanic
ボスニアの母子家庭の母娘が紛争の傷跡が生々しいサラエボの街で貧しいながらも慎ましく生きているが、荒んだ社会と娘の思春期を切っ掛けに払拭できない紛争の悲劇が2人を襲う。本年度ベルリン映画祭金熊賞 (グランプリ)受賞の衝撃作。
7. Requiem
ドイツ/2005年/93分/35mm/カラー/監督:Hans- Christian SCHMID
敬虔なクリスチャン一家の娘にある日突然悪霊が乗り移る。最初は娘の奇行は反抗期の心の乱れだと考えた両親は厳しく折檻するが、更に状況は悪くなり、教区の神父に厄払いを依頼するが...。エクソシズムを通して現代社会の矛盾を問うた異色作。主演女優の怪演が光ります。
8. パリ、ジュテーム
フランス・ドイツ・リヒテンシュタイン・スイス/120分/ 35mm/カラー/監督:アレクサンダー・ペイン、アルフォンソ・キュア ロン、ガス・ヴァン・サント、ウォルター・サレス、クリストファー・ ドイル、ジョエル&イーサン・コーエン、諏訪敦彦、他
世界の著名監督が<パリ>と<恋愛>をテーマに撮ったショートフィル ムのオムニバス。ナタリー・ポートマンやイライジャ・ウッド、ス ティーブ・ブッシュミなど、そのキャスティングも豪華で、個々の監督 の視点と表現が楽しめるパリ版「ラブ・アクチュアリー」(?)。個人的には最終章のアレクサンダー・ペイン監督のエピソードがグッときた。
9. 秋へ(Trace Of Love)
韓国/2006年/117分/35mm/カラー/監督:キ ム・デスン
10年前にソウルで起きた三豊百貨店崩落事件をモチーフに、その被害者と関係者の心の傷と交流を詩的に描く人間ドラマ。婚約者を事故で亡くした青年が、彼女が用意したハネムーン予定旅程をたどると、そこにはひとりの女性が同じルートを旅していた。舞台となった韓国東岸の山海の自然があまりに美しい。
10. Light In The Dusk
フィンランド/2006年/80分/35mm/カラー/監 督:アキ・カリウスマキ
カリウスマキ監督の新作は十八番のドン底人生劇。ショッピングセン ターの警備員の青年が犯罪組織の手先の女性に言い寄られ、見る見る生 活を破滅させていく。今回のPIFFでは監督の弟、ミカ・カリウス マキ監督の姿も。
かなり偏ってゴメンナサイね。主に世界の映画を紹介するWorld Cinemaのセクションからのピックアップになってしまいましたが、このランクに入っていない作品ももちろんどれも素晴らしい作品ばかりでしたし(ある1作品を除く...)、話題のドキュメンタリー 「CrossingThe Line」のように観賞できなかった話題作もありますが。今回のPIFFでは上記のように<戦争の悲劇>や<社会矛盾 >、それらによる<後遺症>を描いた作品が数多く見受けられるようにました。国を超えて映画人がそれを描くのは、今はそういう時代なんだということなのでしょうね。また、PIFFは世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ベネチア)で喝采を浴びた作品たちが一堂にお目見えする場としても知られると前回ナビに書きましたが、その最高峰カンヌ国際映画祭で本年度パルム・ドールを獲得した「麦の穂をゆらす風」(ケン・ローチ監督)が水営ヨット競技場特設会場で上映される際、受賞作のみに許される「パルム・ドール」のロゴが海雲台の夜景を背景に、その巨大スクリーンに映し出される様は映画ファンにはたまらない一瞬でした。ちなみにそこでは日本映画「フラガール」(李相日監督)の上映 も人気を博していたとか。

閉幕式、閉幕作品上映、そして閉幕パーティー
閉幕式は開幕の華やかさと比べ、スターの来場が少ないがゆえにその注目度は低いですが、PIFFは閉幕する瞬間(とき)がむしろいいんです。PIFF最終日の行事は夕方以降ヨット競技場でおこなわれるこの一連のイベントを残すのみ、既存の会場はその前夜から撤収作業がはじまります。閉幕式の司会進行を務めたのは俳優のチャ・インピョとシン・エラ夫婦。釜山市長の挨拶や今回のPIFF各賞の授賞式が厳かに行われたあと、韓国伝統太鼓のライブ、閉幕作品「Crazy Stone」(香港)の舞台挨拶と続き、お待ちかね花火大会の開催です。
打ち上げられるのは5分間程度ですが、その後閉幕作品が上映され、最後に閉幕パーティーで幕を閉じるこの流れが美しく、とても感動的!私自身、連日人混みに揉まれては映画観賞、夜はPIFFセレブが集う関連パーティー潜入に明け暮れる怒濤の9日間で、閉幕時はかなりグロッキー気味なのですが、やはりこの花火で感無量に。そのアクセントとして大音響下で繰り広げられる花火大会がとても効果的なのです。夜空を彩る大輪たちを眺めながら、9日間のいろんな作品の感動や思い出が走馬灯のように流れていき、時には涙が頬を伝うことも。韓国人はひとの感情の高揚や一体感を引き出すのに長けた、とてもイベント上手なひとたちだなと毎回この時につくづく関心します。
閉幕パーティーは今回ヨット競技場内に建つ釜山映画スタジオで開催されました。参加者は主催者発表で約5000人、ステージにはロックバンドのライブが繰り広げられ、皆スポンサーのアサヒ・ビールから無料配布されている生ビールをカッくらい、ギンギンに盛り上がっています。ボランティアも任務から解放され、観客と一緒にバカ騒ぎ。そんな最中、突如アン・ソンギがステージ上に登壇!観客に挨拶し、スタッフをねぎらい、現在韓国で公開中の主演作「ラジオスター」もちゃっかりPR。場内ボルテージはピークに達し、「アン・ソンギ!アン・ソンギ!」コールに沸きかえりました。そしてヒップホップDJがターンテーブルをスピン、私も年甲斐もなく期間中お世話になったボランティアと一緒に朝まで踊ったとさ。

いかがでしたか?少しは今回のPIFFの熱気を感じてもらえたでしょうか。今回のメイン会場となった海雲台のビーチやその周辺はPIFF効果で海水浴シーズンとは違った賑わいをみせ、かなりの経済効果があったと聞きます。逆に、皆さんもよほど見たい作品やイベントがない限り南浦洞まで移動する事は少なかったと思います。でも、南浦洞もやはりPIFFのメッカ、ハンドプリントの手形式(?)や豪華懸賞が当たる抽選会などのイベントが用意され、ボランティアと観客一体で盛り上がっていましたよ。しかし改善されるべき点が多いのも否めません。特に上映開始後の入場禁止制度はもう撤回していいのではと思われます。海外など遠くからきてるのに、何らかの理由で上映開始直後に劇場に到着したが故に作品を見れなかったというのであればシャレになんないですからね。そして、現場運営の混乱はゆきこ記者のご指摘の通 り。それらは次回の改善を期待したいところです。ともあれ、今年も PIFFは無事閉幕。それから1週間経った釜山の街はすっかり普段通リの光景に戻りました。どこか、寒気以上に秋が深まった感じもします。こういう物悲しさを抱かせるのもやっぱりPIFFの威力ですね。今から来年が楽しみででなりません。以上、その思いを胸にニューカメリアで釜山港をあとにするデューク松本がお届けしました。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2006-10-27

ページTOPへ▲

関連記事

釜山国際映画祭 (10月)

釜山国際映画祭 (10月)

アジア最大の映画の祭典!毎年10月におこなわれる釜山国際映画祭

その他の記事を見る