ヤッパプ(テボルム)

黒いごはんでカラスに感謝!

アンニョンハセヨ、プサンナビです。韓国ではお正月を過ぎて最初の満月の日をテボルムと呼び、お月見をする日となっています。日本でのお月見は「中秋の名月」という言葉もあるように秋(陰暦8月15日)に行うのが普通ですが、韓国では陰暦の1月15日がお月見の日で、今年は2月5日になります。そしてこの日は別名、烏忌日(オギイル)とも呼ばれ、カラスに感謝をして祭祀を執り行う日でもあるのです。この風変わりな風習が始まったのは、時代をぐっとさかのぼって新羅の時代。1人の王様が、カラスに命を助けられたことに始まります。
カラスに助けられた新羅の王様
西暦488年1月15日。新羅の第21代王、ソジ王が、お供の者を引き連れて外出したときのことです。目の前に突然ネズミとカラスが現れたかと思うと、ネズミは人の言葉で「このカラスの後についていきなさい」といいました。

驚いた王様は、これはただ事ではないと、カラスの後についていきました。やがてたどり着いたのは南山(ナムサン)という山のふもとにある小さな池。ふと気付くと、いつの間にかカラスはいなくなっており、そのかわりに池からひとりの老人が現れました。そして老人は無言のまま、王様に1通の手紙を渡したのです。

老人から受け取った手紙を見ると、表書きに「この手紙を見れば2人が死に、見なければ1人が死ぬだろう」と書かれていました。王様はそれを見てずいぶん悩みましたが、お供の「手紙を見ずに死ぬ1人とは王様のことです」という進言を聞き入れ、思いきってあけてみることにしました。すると中には一言「城に戻って琴の箱を射よ」と書かれていました。

王様が城に戻ると、確かに琴の箱が置いてありました。そして、この中には王様をなきものにしようと悪巧みをする者が隠れていたのです。王様は弓矢でこの箱を射て、無事に危機を避けることができました。

カラスに感謝して祭祀を行う
カラスに命を助けられた王様は、その1月15日を烏忌日と名付け、カラスを奉る特別な日と定めました。祭祀を行うには供物が必要になりますが、黒いカラスにちなんで、黒いごはんを奉げることにしたといいます。その黒いごはんがヤッパプ(薬飯)です。
ヤッパプ(薬飯)とは
ヤッパプは蜂蜜、黒砂糖、ゴマ油、醤油、栗、ナツメ、松の実などを入れたおこわのこと。ヤクシク(薬食)とも呼ばれます。ゴマ油の香りと、蜂蜜、黒砂糖の濃厚な甘味。そして栗、ナツメ、松の実といった豪華な具が食欲をそそります。
慶州にはその伝説の池が
この伝説の舞台となった池が、現在も慶州(キョンジュ)に残っており、老人が手紙を持って出てきたところから書出池(ソチュルジ)と呼ばれています。池のほとりには、二楽堂(イヨダン)という朝鮮時代の古い建物が立ち、池の水面には蓮の葉が静かに揺れています。慶州の中では特に有名な観光地というわけではないですが、新羅の歴史の1コマが刻まれた場所を見ようと訪れる人も少なくありません。
そのほかテボルムの日に食べるもの
テボルムの日に食べる料理はヤッパプだけではありません。この日は韓国の数ある年中行事の中でも、特に食べるものが多い日です。ざざっと紹介していきましょう。

<オゴッパプ(五穀飯)>
米、キビ、アズキ、アワ、豆など、5種類の穀物を混ぜた炊いたごはんをオゴッパプと呼びます。たくさん作って近所の人たちと分けて食べます。
<栗、クルミなど>
プロムといって、栗、クルミ、ピーナッツ、銀杏、松の実などの堅いものを食べます。これらを食べると、その年は皮膚病にかからないといいます。
<清酒>
朝に冷たい清酒を1杯飲むと、耳の聞こえがよくなるといわれています。この酒を耳明酒(イミョンジュ)、またはクィバルギスル(耳が明るくなる酒)と呼びます。

<ナムル>
前年から貯蔵しておいた豆モヤシ、カブ、大根などの野菜で9種類のナムルを作って食べます。陳菜食という風習で、オゴッパプと一緒に食べるとその年は夏負けしないといいます。
<パッチュク(アズキ粥)>
アズキ粥を食べたり、門の前にまいたりします。古くに中国から伝わった風習で、病気の鬼神を遠ざける意味があります。パッチュクは冬至の日にも同じ目的で食べます。
テボルムの日は食べるだけでなく、お月見をして、その年にかなえたいことを月に願うなど、さまざまな行事があります。このテボルムと正月は特に行事の数が多く、この2つだけで、1年に行う年中行事の半分を占めるともいわれています。全部を試してみるのは難しいですが、ピーナッツやクルミを食べるくらいはやってみてはいかがでしょうか。また、ヤッパプはお餅を扱う専門店や、デパート、市場などで購入できます。ヤッパプを食べる機会があったら、ぜひ新羅の歴史と、カラスの姿を想像しながら食べてみてください。1500年以上も昔から脈々と続く、悠久の歴史の味がするかもしれません……。以上、プサンナビでした。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2004-02-05

ページTOPへ▲

関連記事

テボルム

テボルム

お正月は15日のテボルムまで。テボルムを一緒に祝おう!

その他の記事を見る