デュークの総括!『第12回釜山国際映画祭』

PIFF2007を振り返る!

アンニョンハセヨ、デューク松本です。アジア圏最大の映画祭、今年も様々なイベントや大勢の観客・ゲストで賑わった釜山国際映画祭(通称:PIFF)も12日の閉幕式をもって終了しました。毎年、いろんな顔を持つPIFFですが、今回はどういう映画祭だったのでしょうか。怒濤の9日間を一気に振り返りつつ、考えてみましょう。
<数字でみるPIFF2007>
開幕式がPIFF史上初の降雨にたたられ、その行く末が心配された今回のPIFFですが、世界64ヶ国から271本(短編含む)の作品がエントリーされ、計770回の上映がなされました。うち、世界初披露となるワールドプレミアは65作品、国外初上映となるインターナショナルプレミアは26作品です。会場は昨年同様に海雲台をメインに、PIFF広場がある南浦洞、そして新たに慶星大・釜慶大エリアに誕生したCGVデヨンの3地区展開となり、スクリーン数は昨年より3スクリーン多い34スクリーン態勢、総座席数は1万3538席。観客は19万8603人を動員し、これまで最高だった第10回(2005年)の記録を破り過去最高を達成しました(座席占有率は75.8%で過去3番目)。
<PIFF2007を彩ったゲストたち>
開幕式から閉幕式まで多彩なゲストが釜山入りしましたが、その多くは自国の韓流セレブたち。彼らはすでにナビで紹介されてるので、みなさんご存知ですよね。まずは開閉幕式の司会を務めたムン・ソリ&チャン・ジュンファン監督夫婦をはじめ、チ・ジニ、イ・ドンゴン、オム・ジョンファ、チャンヒョク、キム・テヒ、イ・ギョハン、オ・ジホ、パク・ソルミ、キム・ジュヒョク、キム・ジス、キム・ソヨン、ガァンミン、チャン・ヒョク、イ・ミョンヒ、コン・ヒョジン、ソン・ヘギョ、ユ・ジテ、カン・ソンヨン、ムン・ソングン、キム・ナムジン、パク・チアなどなど。なかでも最も注目を集めたのは、韓流スターのカン・ドンウォン(ファンの前には姿を現わしませんでしたが)、カンヌ映画祭で主演女優賞(「Secret Sunshine」)を獲得したチョン・ドヨン、アメリカの人気TVシリーズ「LOST」に出演しているダニエル・デイ・キムではないでしょうか。監督勢は巨匠イム・グォンテク監督やキム・スンホ監督など普段より渋めの方が見えられました。
詳しくは、プサンナビの「開幕式レポート」を参照。
国外ゲストとなると最もスポットが当たったのはなんといっても「HERO」の木村拓哉。国境を超えてスーパーアイドルぶりを発揮していました。日本勢ではパーティーにひょっこり藤原竜也が現れたり、「クローズド・ノート」の行定勲監督が舞台挨拶で盛り上がったりと(もちろん作品もね)韓国人の文化的親日ぶりは相変わらずです。
韓日以外の国からは中国、台湾、シンガポールなどから俳優陣が訪れましたが、ゲストとしては監督陣の方が多く見受けられました。台湾のホウ・シャオシェン監督をはじめ、イギリスのピーター・グリーナウェイ監督、フランスのクロード・ルルーシュ監督、ドイツのフォルカー・シュレンドルフ監督、イランの Dariush Mehrjui監督らがセミナーを開いたりハンドプリントをしたりしました。こちらも渋めの面子です。ハンドプリントは例年になく多い年でしたが、アジア・フィルムメーカーズ・オブ・ジ・イヤー賞に選ばれた台湾のエドワード・ヤン監督は既に故人なので、その代理として小学生ぐらいの息子さんがハンドプリントをしました。
しかし、映画的にはPIFF2007のメインホストはやはり映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネ(イタリア)でしょう。「夕陽のガンマン」などのマカロニウェスタンものをはじめ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」、「ミッション」、「アンタッチャブル」、「海の上のピアニスト」、「マレーナ」など数々の名スコアをおくりだし、今年のアカデミー賞で名誉賞を授与された人物です。日本的には「ニュー・シネマ・パラダイス」の作曲者といったらわかるかもしれません。PIFF2007への参加は開催3日前に公表されました。当初は彼のハンドプリント式も予定されてましたが、急遽欠席。私自身もミーハー心から秘蔵のレコードを日本から持ってきたのですが、サインゲットならずでした。残念。
<PIFF2007の上映作品群>
去る9月18日に開閉幕チケット(各5000枚)がインターネット販売され、開幕作「Assembly」(中国)が発売開始から17分16秒で、閉幕作「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」(日本)は26分50秒で売り切れになりました。毎年、開閉幕チケットの即売はニュースになるのですが、今年は開閉幕作ともに非韓国映画だということに注目です。しかも、後者は長編アニメーションでシリーズ作。これはPIFF始まって以来の選定でした。数年前の日本文化解放前を知る者としては、驚くべき進歩です。ちなみに前者は中国産の戦争映画でありながら韓国映画「ブラザーフッド」のVFX陣が特殊効果を担当したということで、全く韓国と関係ないわけではありません。
前序の通り、今回は世界64ヶ国から271本の作品が上映されました。今回は韓国映画が多くのシェアを占めていて、その他マレーシア特集や国外の有名どころではガス・ヴァン・サント監督、ケン・ローチ監督、ドゥニ・アルカン監督、ホウ・シャオシェン監督などの新作も用意されています。271本の全てを観賞することは到底不可能ですが、その中で私がかいつまんで観賞した約30本のうち良かった作品ベスト10ご紹介します。
1.『Actresses』
監督:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/2007年フランス/107分
パリを舞台に舞台女優の主人公が舞台稽古から千秋楽までを経る中、周囲の共演者や監督・スタッフ、身内からまでてんてこ舞いにさせられる恋愛コメディ。ウディ・アレンを彷彿とさせるその展開に終始笑いが止まらず、迷わず今回のナンバーワン。
2.『4 Months, 3 Weeks and 2 Days』
監督:Cristan Mungiu/2007年ルーマニア/113分
カンヌ映画祭パルムドール作。冷戦終結直前のブカレストを舞台に、当時非合法だった堕胎をはかるルームメイトのために奔走する主人公の女性とそのルームメイトとの友情のドラマ。過去の遺物となった冷戦期の東欧の非凡な日常をシニカルに描く。
3.『Foster Child』
監督:Brillante M. Mendoza/2007年フィリピン/98分
マニラの貧民地区に住む主人公の女性は貧しい中で孤児を育てていたが、その子をアメリカ人夫婦に里子に出す時がやってきた。日常的な朝から里親に会う夜までをドキュメンタリータッチで追う衝撃の感動作。
4.『潜水服は蝶の夢を見る(The Diving Bell and The Butterfly)』
監督:ジュリアン・シュナーベル/2007年フランス/112分
ファッション誌の敏腕編集員だった主人公は気が付いたら全身麻痺で病院の病床にいた。辛うじて動くまぶたを利用し、美しくも献身的な介護士の助けで言葉を伝えていく。伝えられないが故に軽視されがちな全身麻痺患者の意思や人格を見直す優れたドラマ。
5.『Our Father』
監督:Christopher Zalla/2007年アメリカ/110分
メキシコから2人の青年がニューヨークへ不法入国するのだが、父親を訪ねて渡る良い青年が片方の悪い青年に手荷物を盗まれ行くあてもなくなり、盗んだ青年は彼になりすまし父親に会いに行き、親子の情を深める。ブラックコメディ。
6.『Paranoid Park』
監督:ガス・ヴァン・サント/2007年フランス・アメリカ/90分
過失で殺人事件を起こしてしまい、それを内に秘めつつも過程や学校、ガールフレンドとの関係と距離を置きスケートボードに没頭する少年の喪失感、揺れ動く気持ちを印象的に描いたドラマ。撮影監督はクリストファー・ドイルというから納得。
7.『Before the Rains』
監督:Santosh Siven/2007年インド・アメリカ/98分
インド独立前夜、イギリスの駐在員の主人公は美しいインド人メイドと不倫するが、運命のいたずらで彼女は自ら命を絶つ。それに使われたのが最も信頼しているインド人助手に贈ったものだった。献身的な彼は駐在員のために罪をかぶろうとする。そんな折、独立の波が。
8.『Tribe』
監督:Jim Meer Libiran/2007年フィリピン/95分
マニラの貧民街を舞台に、まだあどけない少年が周囲に蔓延する銃社会、暴力、セックス、ドラッグ、そして死を受け入れつつ生活している様子を彼の視線でドキュメンタリータッチに生々しく描く衝撃作。
9.『Son of a Lion』
監督:Benjamin Gilmour/2007年オーストラリア/92分
パキスタンのアフガニスタン国境付近の村に住むパシュトゥーン人の少年は、彼の父が生業にしている銃の製造・メンテナンス業を継ぐことを拒否し、ただ学校へ通うことを望んでいる。白人であるオーストラリア人監督が、911事件以降の歪んだ中東の田舎生活を見事に活写。
10.『Stages』
監督:Mijke De Jong/2007年オランダ/80分
オランダでも社会問題になっている「ひきこもり」の子供を持つシングルマザーが、子供と仕事と口ばかりの元夫の間で板挟みになっていく様を静かに描くドラマ。主に元夫婦間やそれぞれの人間関係との会話でストーリーは成立し、オチはいかにもオランダらしい仕上がり。
今回は例年になく小粒な作品が多いように見受けられました。もちろん日本公開されていない作品がほとんどですが、日本で先月開催されたアジアフォーカス福岡国際映画祭で紹介された中国映画『トゥーヤの結婚(Tuyas Marriage)』とインドネシア映画『永遠探しの3日間(3 Days to Forever)』もおおむね好評でした。韓国映画では毎年出品されるキム・ギドク監督の新作『息(Breath)』(キドク節は健在)とJung Yoon Chul監督のコメディ『Skeletons In the Closet』が楽しめたかな。短編ではフィンランドの監督が北朝鮮の情景をエキセントリックに綴った『DMZ』がビデオルームで引っ張りダコになってました。最後に印象として、やっぱりフランス(フランス語圏含め)が全般的にレベルが高い映画作りをしているなってことと、アジアとしては今回はフィリピン映画が拾い物だったと感じました。

<PIFF2007閉幕式>
12日にはアウトドアステージで閉幕式が行われました。PIFFはゲストが前半に集中するので、この時になるとレッドカーペットもまばら。若干の韓国人の有名人や外国からの審査委員団、今回から始まったアジア・フィルム・アカデミー(AFA)の受講生、そしてお馴染み釜山広域市長とPIFF実行委員長のキム・ドンホ氏が歩いていきます。そして式が開幕するや重大発表があるのこと。なんと、PIFFがユネスコのFelini Medalを受賞したというではないですか。私はそれが何か知らないですが、最後の最後まで話題作りには事欠かないのがPIFFですね。華麗な韓国民謡のパフォーマンスのあと、各賞が発表されます。その多くがスポンサー絡みの特別賞みたいなものなのですが、PIFFの最高賞にあたる「観客賞」は今年はマレーシアの「Flower In The Pocket」がめでたく授賞しました。
授賞式が終わると恒例の花火が打ち上げられ、閉幕作品「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の上映開始です。周囲を散策し観客の様子を観察すると、男女問わず10代から20代の若者が大部分を占めているようでした。根っからのジャパニメーション・ファンなのでしょうね。しかし、よく見ると地元民らしきアジュマたちの姿が点々と。意味わかって映画見ているのか、ちょっと疑問です。そういえば、中座して帰って行く人たちも普段より多かったような。上映が終ると割れるような拍手。エンドクレジットが始まると一斉に帰るのが韓国の観客ですが、退場口に行列ができて並んでいるうちに次回ヱヴァンゲリヲンの予告編が流れ出しました。彼らにとっては大サプライズ。予告編が終ると大喝采が鳴り響きました。(写真は閉幕式翌日の釜山日報)
<123・134>
退場口を出るとドックを改装したイベントホールで観客・ゲスト入り乱れての閉会パーティーの開幕です。今年もアサヒビールがスポンサーとなり、タダ酒ならぬタダビールが振る舞われるとあって、押せや押せやの大混乱、この私も一瞬圧死しそうになりました。そして、ステージにバンドが上がり大盛り上がり。今回は2バンドのライブが楽しめたのですが、そのうちのひとつはなんと男性メンバーは全員リーゼントのロカビリーバンド、韓国初体験です。これはカッコ良かった。半分英語、半分韓国語で歌い上げるそのステージに、映画祭での色んな体験や思いが反響し、シェイク&シェイク、ベイベーです。最後はリッチー・バレンスの「ラバンバ」で場内大合唱でした。ちなみにバンド名は「Rock Tiger」、ロックンロール好きなら要チェックです。
さて、いかがでしたか。開閉幕関連以外でもイベントラッシュで例年以上に楽しめた今回のPIFFですが、いくつか気掛かりなことがいくつかありました。ひとつは釜山市民はどれだけPIFFに来て映画を観たりイベントに参加したりしてるのかな、ってことです。これは実際にアンケートをとったわけではないので実態はわかりませんが、街を行き交う人たちや釜山人の友人たちに聞く限り、もちろんその知名度は絶大なのですが、実際にPIFFに参加する人としない人の二極化が進んでいるように感じました。例えば木村拓哉が来釜した「HERO」の上映時でもそうだったように、はたから見たら単純に大人数来場しているのですが、その多くは釜山以外から来た人でした。

PIFFに参加しないある釜山人(20代男性)曰く「PIFFは映画好きが韓国中から集まっているから盛り上がってるんだよ。昔はたまに映画を観に行ってたけど、チケットがすぐ完売したりするニュースをよく聞くので、今ではちょっと敬遠気味かな」と。確かに期間中は報道でPIFFのことは頻繁にとりあげられてますが、そもそも釜山にはPIFFで上映されるような作品を普段から上映するミニシアター系映画館が1軒しかなく、そこも経営には苦慮していると以前インタビューしたこともあり、釜山市民とPIFFとの関係に微妙な違和感が生じているのかもしれません。

それと、総じて大物ゲストが来なかったこと。開幕式はじめ多くの韓国人芸能人が来釜しましたが、国際的に知られる韓流スターや、一昨年のジャッキー・チェン、昨年のアンディ・ラウのような国際的スターの来場は最後まで実現しませんでした。そういった意味でエンニオ・モリコーネの来韓は大変貴重だったと言えるでしょう。あと韓国映画のシェアの多さやチケットのインターネット販売の外国人の購入の難しさ、外国人プレスの少なさ、開幕式で年末の大統領選をにらんでの李明博氏・鄭東泳氏両候補の来場もあいまって、とてもドメスティック色が強い映画祭だという印象を持ちました。

でもPIFFが、そして釜山で開催される意義が大きいのには何らかわりありません。今年は過去最大の動員を記録したと前序しましたが、規模が大きくなるのには何にせよ限界があります。これはひとつの過渡期的状況であり来年に向けてのテーマだと思います。来年はこれまで以上に充実した映画祭、例えば釜山市民との繋がりや外国に対してオープンなホスピタリティを重視した映画祭を目指してもらえればなと、期待を胸にしつつ釜山港の夜景を後にするデューク松本がお届けしました。

その他情報

*写真をPIFFより提供いただきました。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2007-10-19

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