冷麺(11月の季節料理)

いよいよ冷麺の季節が到来!

アンニョンハセヨ、プサンナビです。町を吹き抜ける風がだんだんと冷たくなり、いよいよ冬の訪れが感じられる頃です。部屋の中はオンドル(韓国の床暖房)がきいて暖かいものの、外に出るのはちょっと億劫な季節。さて、そんな寒い寒い冬を迎えるにあたり、今日は韓国の冬を代表する料理を紹介したいと思います。何だと思います? 屋台のおでん? グツグツ煮え立ったチゲ? いえいえ違います。韓国の冬といえばやっぱりこの料理。つめたーく冷えた、冷麺の登場です!
冬に冷麺って我慢大会ですか?
さて、冒頭部分を読んで、自分の目を疑った方も多いのではないかと思います。あるいは、プサンナビ……大丈夫? と心配された方もいらっしゃるかもしれません。それはそうですよね。寒い冬に向けて紹介する季節の料理が、あろうことか冷麺。寒い冬に食べたくなる料理だとは到底思えません。

事実、韓国でも冷麺は夏の季節料理として人気が高く、夏が近づくと町の食堂には「冷麺開始」の貼り紙が見られるようになります。冷麺は夏に食べておいしい料理。それは間違いないのですが、今日はそれを踏まえた上で、冷麺は冬の季節料理でもあるということをお伝えしたいと思います。冬は冷麺にとってもうひとつのオンシーズン。立派な冬の季節料理なのです。

冷麺は11月の季節料理
冬は冷麺の季節。その証明となるのが1849年に書かれた『東国歳時記』という本です。朝鮮時代の歳時記を克明に記したこの本には、11月の季節料理として冷麺の名前があげられています。その説明にも、そば粉で作った麺に大根キムチや、白菜キムチ、豚肉などを和えたものを冷麺と呼ぶとあり、現代のものと大差のない料理であったことがうかがえます。冷麺は少なくとも朝鮮時代には、冬の料理として親しまれていたようです。

ちなみに「冷麺は11月の季節料理」と書きましたが、これはあくまでも旧暦のこと。新暦で数えると12月頃になるので、本当は冬の真っ盛りに食べたということがわかります。韓国の冬はオンドルがあるため、室内は意外にポカポカと温かいもの。空気も乾燥するので、冷たい汁の冷麺は最高のご馳走だったのかもしれません。

冷麺は関西がうまい?
 『東国歳時記』では冷麺の簡単な説明のほか、関西地方がもっともおいしいということも紹介されています。この関西地方というのは現在でいう平壌(ピョンヤン)のこと。冷麺はもともと北部地方で発達した料理で、現在は北朝鮮に位置する平壌と咸興(ハムン)の2ヵ所が特に有名です。平壌式の冷麺は冷たいスープに麺を入れたムルレンミョン。咸興式のほうはスープを入れず辛いヤンニョム(薬味ダレ)を麺にかけて食べるピビンネンミョン。平壌冷麺、咸興冷麺という呼ばれ方をすることもあります。
そば粉文化圏と小麦粉文化圏
冷麺はそば粉、緑豆粉などから作られた麺料理。冷麺の本場である北部地方はそば粉が豊富にとれることで有名です。冷麺のほかにもそば粉を用いた料理が発達しており、その姿は現在の江原道(韓国の北東部に位置する道)にもよく見られます。マッククス(そば粉を使った冷たい麺料理)、メミルジョン(そば粉のお焼き)などの料理は、すべて江原道の名物料理です。
マッククス

マッククス

メミルジョン

メミルジョン

これに対して、南部地方は小麦が豊富にとれる地域であり、小麦粉を用いた料理が発達した地域です。釜山をはじめとした慶尚道(韓国の南東部に位置する道)には、小麦粉を使った名物料理がたくさんあります。代表的なところでは慶州(キョンジュ)のカルグクス(韓国式の手打ちうどん)、安東(アンドン)のコンジンククス(鮎でダシをとった冷たい麺料理)、そして釜山のミルミョン(小麦粉を使った冷たい麺料理)などがあげられます。

小麦粉で作る麺の代表格であるカルグクスが麺生地を薄くのばして作る切り麺であるのに対し、冷麺はかたまりの生地を細い穴から押し出して麺を作ります。練っても生地がボロボロしているため切り麺には向かないからですが、同じ麺料理でも調理法が大きく異なるのは面白いところです。
釜山を代表するミルミョン
小麦粉文化圏の釜山では、冷麺よりも小麦粉麺のミルミョンが多く食べられています。このミルミョンという料理は冷麺と作り方がよく似ており、麺の材料となる粉が違うほかは、押し出し式の麺であること、冷たくして食べるということ、乗っている具の種類や、酢、カラシを加えて食べることなど、共通点が多数あります。それもそのはず。ミルミョンという料理を生み出したのは、冷麺の本場である北部地方の人たちなのです。
ミルミョンが生まれたのは朝鮮戦争の頃。釜山まで避難してきた北部地方の人たちが、避難生活の中でなんとか故郷の味を作ろうと、小麦粉を代用食材として冷麺を作ったことに始まります。そば粉の冷麺とは多少風味が異なるものの、冷たくてつるっとしたノド越しのよさは同じ。それが段々と広まっていき、現在では釜山を代表する郷土料理にまで成長しました。南部地方の食材である小麦粉を、北部地方の技術で調理したミルミョン。戦争の悲劇が生んだ料理ではありますが、南北粉食文化の美味なる融合料理であるといえます。
釜山で冷麺を食べるには
釜山で冷麺を食べられる店として、プサンナビでは西面(ソミョン)エリアにある咸鏡冷麺(ハムギョンネンミョン)、東大新洞(トンデシンドン)にある嶺南冷麺(ヨンナムネンミョン)などを紹介しております。そのほかにも焼肉の店であればたいてい食事メニューとして冷麺があり、また普通の食堂でも店によっては冷麺を置いているところもあります。また釜山名物のミルミョンについてはコチラのページにまとめてあります。冷麺だけでなく、ミルミョンのほうもおすすめです。
寒い季節に冷たい冷麺。暖かい部屋の中でだったら、なかなかオツなものです。焼肉をたっぷり食べた後に、さっぱりと冷麺で仕上げるというのもいいですし、お昼ごはんにつるつるっと食べるのもまたたまりません。冷麺は夏だけの料理にあらず。寒い冬を冷たさの魅力で楽しんでみてください。以上、プサンナビでした。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2004-11-12

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