プサンナビのワールドカップリポート2【2002年】

真っ赤に燃え上がったスタジアムに韓国人の団結心を見る

韓国vsアメリカ戦
アンニョンハセヨ、プサンナビです。今回は韓国で行われるワールドカップの中でも最も熱い試合のひとつ、韓国vsアメリカ戦をリポートしてまいりました。もともとチケットなど持っておらず、会場である大邱(テグ)の雰囲気を取材してくるはずだったのに、思いがけずチケットを入手して、雰囲気のみならず試合までリポートすることができたのです。
チケットが当日販売!?
ナビが大邱ワールドカップ競技場のおひざもと、東大邱駅(トンテグ)に到着したのは午後3時。すでに駅周辺はアメリカ戦のムード一色でした。とりあえず案内所で競技場についてたずねると、なんと韓国戦も当日販売のチケットがあるとのこと。韓国戦なのに耳を疑うような話ですが、とりあえず販売所があるというワールドカップ競技場に向かいました。

会場に到着するとすでにたくさんの人が列を作って待っていて、聞くと「当日発売のチケットがここで発売されるので、昨日の朝から待っている」とのこと。また「発売の詳しい内容は夕方6時に発表」とのことでした。ナビはサッカー観戦は日本リーグ時代(Jリーグの前身)に何度かありますが、こんな大きな大会は初めてなので「もし買えるものなら並んででも買おう」と考え、列の後ろに並びました。
 
5時30分ころ前から「番号を書け。これが予約番号」だといってマジックが回ってきました。そこで「入場券を買えたのも同然」と考えたナビは甘かった。夕方6時になって、明日の朝6時にワールドカップスタジアム前にて、入場券7000枚発売とのテレビ放送が流れたそうです。なぜ全体客席数の13%にもあたる7000席の入場券が当日に発売されるのかと不思議に思い聞いたところ、FIFAとバイロン社が3500枚ずつ出したとのことでした。バイロン社は大会が終わったらどうなることやら。

徹夜の行列
さあここからが大変。先ほど書いた番号は、大会関係者が書かせたものではなく、お客さんが勝手に書いた番号で無効だとのこと。もう一度番号を書くこととなり、要領の悪い販売方法だとあっちこっちで怒っている人がいる中、9時頃になってやっと番号が回ってきました。1004番だったので、ひとりが2枚買ったとしてもナビも十分に買えると思いきや、こういう列がもうひとつあって実際には2000番近くでした。さらにこの場所を離れたらその番号も無効であるとの情報も入ってきたので、どうすることもできないナビは、朝までそこで待つことに。

夜中も応援団は元気そのものでした。バイクに3人乗りして、大極旗を振りながら走り回る者やワゴン車でオ・ピルスン・コリア(必勝韓国)を連呼する人も見かけます。警備のため沢山の警官が巡回していましたが、この大会も国民的お祭りのためか、警察からのおとがめもなしです。印象的なのは、各自マットをもってきて寝ているのだけれど、体に大極旗を巻きつけて休んでいる人がいたことです。韓国が勝つ夢を見ているのでしょうか。また一晩中お酒を飲みながら、サッカー談義を交わしているグループがいくつもありました。
明け方4時30分くらいになるとみな起き始め、6時からの入場券発売に備えていました。6時前にはテレビ局が集まり、中継のテスト。6時ちょうどに入場券の発売が始まり、2日泊り込んでやっと入場券を入手したといって大喜びする学生を、KBS放送とMBC放送が取材をしようと取りあいをする場面もありました。またあっちこっちで入場券を入手できた人が大騒ぎしています。ナビが入場券を買えたのは発売から3時間過ぎの9時でした。前日ここに来てから約16時間も待って入場券を手にすることができたナビは、ほとんど寝てないので喜びよりも「座ってゆっくりできる」という安堵感のほうが先にくるのでした。
10時30分に入場券がすべて売り切れたのですが、買えなかった人があちこちで販売方法や案内方法についてかなりの抗議をしているのを見かけました。 
12時頃には沢山の観衆が集ってワールドカップ競技場の前で輪を作り、オレオレハングやテーハミング・テーハミングなど応援の歌を連呼し、雰囲気を盛り上げていました。試合の3時間前にはすでに、会場のテンションも最高潮。
ナビは12時30分に入場をしたのですが、入り口で厳重にボディーチェックと荷物のセキュリティーチェックがあり、カバンの中をすべて見られ、特にペットボトルは全て没収されました。外からの持込は絶対だめで、飲料水は中での発売のみに限定されています。
このワールドカップスタジアムは 2年前に来たことがあるのですが、その時は建設工事中だったため殺風景でしたが、完成したワールドカップスタジアムを見ると施設も増えて 広さに驚かされました。そうそう、このワールドカップスタジアムでは、今度のワールドカップでは重要な試合が組まれています。韓国の16強進出に大きな意味を持つこのアメリカ戦と、今回のワールドカップで韓国での最後の試合となる準決勝が組まれています。
大型スクリーンでは、韓国―アメリカ戦の予想ゲームをやっていて、当然韓国が2ゴールを決め勝ちとなるものでした。
燃えるような赤に染まったスタンド
スタンド中がレッドデビルズ(赤い悪魔)のシャツで埋めつくされているのは圧巻でした。テレビで見た、赤一色にうめつくされたワールドカップスタジアムに立っている自分が信じられません。そういうナビも、雰囲気に負けて赤いTシャツを着ている一人でした。
この日の観衆は60,777人との発表がありました。スタンドを見ても圧倒的に韓国の応援団で埋め尽くされており、アメリカの応援団はざっと見ても500人くらいしか見つけることができません。アメリカの選手はさぞかしやりにくいでしょうね。
アリランの音楽と共に両チームが入場してきました。観衆は拍手でお出迎えです。セレモニーに続いて韓国国歌、愛国歌(エグッカ)に合わせ巨大な大極旗が客席を上がって行くときは、ナビも胸に手を合わせ口ずさんでしまいました。
先発出場選手の紹介では、なんと言っても前回ポーランド戦で得点を挙げたファン・ソンフン(柏レイソル)とユウ・サンチョル(柏レイソル)に対する拍手が最高でした。まさにワールドカップスタジアムがわれんばかり。さらに歓声がすごかったのは、予想外にヒディング監督です。選手以上に国民の認知度が上がっているのでしょう。なんとこの3人、前回の初勝利でプサンに銅像ができるとか。まあ、なんと言っても48年間待った1勝ですから当然かも。
逆にアメリカチームの紹介やスクリーンにアメリカ選手が映し出されると、かなりのブーイング。やはり、冬季オリンピックのショートトラックで起こった、キム・ドンソン選手の失格騒動が、今でも尾を引いているのでしょうね。

3時30分キックオフ。すぐに韓国にチャンスがやってきました。センタリングからのボールをソル・キヒョンがあわせたのですが、惜しくもゴール上。さらに韓国は再三に渡って、アメリカを攻め立てるのですが、決定力にかけゴールにつながりません。しかも決定的なPKの場面でも、イ・ウリョンがまさかの失敗。
PKをはずすイ・ウリョン PKをはずすイ・ウリョン PKをはずすイ・ウリョン

PKをはずすイ・ウリョン

20分過ぎファン・ソンホン選手がヘディング中にアメリカ選手とぶつかり目の上を負傷。その治療中に一人少ない10人で戦っているとき、不運にもアメリカのモヒカン刈りの選手から1点を入れられます。当然ワールドカップスタジアムはどよめきの渦。今大会唯一の失点。
ファン選手は頭に包帯を巻いているのですが、目の上辺りが腫れ、少し血がでているのがわかります。それでも果敢にヘディングに行く姿を見ると、ワールドカップ出場4回、今回最後のワールドカップに燃える男の意気込みが感じ取れます。
後半に入り5分過ぎ、韓国はセリエAでプレーするアン・ジョンファンを投入。甘いマスクで大人気だけに、スタンドの女子高生からも黄色い声の嵐です。やっぱり人気ではNO1ですね。
途中アメリカのモヒカン刈りの選手が2度ほどファールをすると、応援団から「オーノ、オーノ」(冬季オリンピックでキム・ドンソンが失格になり、オーノが金メダルを取った)との声が上がります。このあたりにも、冬季五輪の根の深さが感じられました。
後半もずっと韓国ペースで攻めるのだけれど決定的ゴールを上げられないまま30分が経過しました。応援団も少し沈みがちだったとき、曇り空が急に晴れてきました。ここでこの試合の最大の見せ場がやって来るのです。
イ・ウリョンのフリーキックをアン・ジョンファンが頭で合わせて、ゴールの右隅にゴール!全員総立ちとなり「ハングッ・ハングッ」の大合唱で、まさに地鳴りに等しく、スタンドが揺れているのが感じ取れるほど韓国人は興奮していたようです。アン・ジョンファンがキム・ドンソンのまねをイ・チョンスがオーノのまねをしたときには、スタンドのアジュンマからキヨプタ(かわいい)との声が沸き起こり、パドタキ(ウエーブ)が2周、3周と回っています。PKをはずしたイ・ウリョンもこれで名誉挽回です。
最後の10分ぐらいは、韓国応援団は力の限り「オレオレハング」[テハミング]などで大応援。最後に、勝利のゴールのチャンスがあったのですが、残念ながらこれも外してしまいました。なにか今日はフォワードがなかなかゴールを決められず焼きもきすることが多かったです。最後のゴールが決まっていたら、この試合の勝利がほぼ確定するだけではなく、勝ち点が6になり16強進出が確実視されるところだったので、残念なゴールの失敗でした。
最後審判の笛が鳴り試合が終了すると、みな「まー良かった」との声が漏れていました。それもそのはず、後半30分までは負けムードが漂っていたのですから。
スタンドが赤一色になるほど(実際に赤一色でした)の応援は、韓国人の団結心を見る思いでした。 幾多の苦難の歴史を持つ韓国では、常に対立の歴史でしたが、今回のワールドカップぐらい、韓国人4000万人の心がひとつになったのは初めての出来事ではないでしょうか。 さらに国民の応援をバックにポルトガルを撃破し、16強進出を決定づけて貰いたいものです。最後に生のワールドカップを、私の好きな韓国の試合をワールドカップスタジアムで見ることができ、これ以上の幸せはございません。大邱ワールドカップスタジアムよりプサンナビがお送りいたしました。 


上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2002-06-10

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